東京高等裁判所 昭和32年(う)155号 判決
被告人 野田文明
〔抄 録〕
論旨第二点について。
原判決挙示の証拠を綜合すると原判示事実はこれを認めることができる。尤も被告人が武下清人に対し金五十万円の借受を申し込んだ際、その担保とすることを約した被告人が戸田泰一所有地に対して有する借地権は金二十一万七千円、宇田川保太郎所有家屋は金二十八万三千円と各評価し、それぞれこれによつて担保せらるる債権額を右と同額と一応定めたことは記録によつて窺われるのであるが、しかし右借地権を担保として金二十一万七千円を借り受け、右家屋を担保として金二十八万三千円を借り受けるというように判然と区別して借り受けた訳ではなく、右借地権及び家屋を一括して担保に提供し只右家屋に対する抵当権設定登記をするに当り、被担保債権の債権額を定める便宜上一応債権額を担保物件の評価額と同額に分割したに過ぎないことが認められる。而して真実の事実と虚偽の事実とを併用して相手方を信用させ金員の交付を受けた場合にはその金額全部について詐欺罪が成立するものと解すべきであるから、被告人が武下清人より金員を借り受けるに当り担保として提供したもののうち、借地権は真実被告人が有するものであつたとしても、他の宇田川保太郎所有の家屋につき同人がこれを担保とすることを承諾していないのに拘らず、恰もその承諾あるものの如く装つて担保に提供し、武下清人をしてその旨誤信させて金員の交付を受けた以上、その金員全部について詐欺罪が成立するものといわなければならない。されば原判決には所論のような事実の誤認乃至法令適用の誤はなく、理由不備の違法もない。論旨は理由がない。
(大塚 渡辺辰 江碕)